第18章 奏でるモノクローム
「お疲れさまー!」
収録を終えれば、百が真っ先に言った。そんな彼に答えるように、零は笑顔を作って見せる。
『お疲れ様』
「今日、この後の予定は?」
百の質問に、零は目を見開いた。だって、前までは当たり前のように聞かれていた言葉だったのに、やけに久しぶりだったから。
『……今日は……、仕事はおしまい。この後、龍の家に遊びに行く予定だよ』
「え!?…龍の家!?」
『うん。楽と龍と天の三人で一緒に暮らし始めたんだって。だから引っ越し祝いに。……よかったら、百も来る…?』
「行きたいっ!……って言いたいところなんだけど…。夜からバラエティの収録が入っててさ。それまで少し時間あるから、ごはんでもどーかなって思ったんだけど、また誘うね!三人によろしく伝えておいて!」
『あ、そうだったんだ…。ごめんね、また誘って?次は絶対行くから』
「あははっ、ありがと。期待しとく。またね」
『うん……またね!』
笑顔で挨拶を交わしてから、何度もこちらを振り返っては手を振る百の背中を見つめていた。
――少しずつ、ほんの少しずつだけど。
前に戻れているのかな?
百の笑顔を見れるのも。百が食事に誘ってくれるのも。
前までは当たり前だったことが、今じゃこんなに、こんなに嬉しいなんて。
じんわりと温かくなっていく胸に手をあてて、小さな幸せに思わず微笑んだ。