第18章 奏でるモノクローム
翌日――。
徹夜でドーナツ作りに励んだ零の目の下には、うっすらと青いくまが浮かび上がっていた。幸い、今日のスケジュールは百とのラジオ番組の収録のみ。コンシーラーで隠してから、いつものように万理の車でスタジオへと向かった。
「零、おっはよーん!」
廊下を歩いていれば、後ろから元気な声が聞こえてきた。振り向かずともわかるその声に、零は嬉しそうに笑ってから振り向いた。
『百!おはよ』
「おはよ!あれ、どうしたの?くまなんか作って……。寝不足?大丈夫?」
コンシーラーでなんとか隠したつもりだったけど、どうやら百にはお見通しだったようだ。零はごまかすように笑ってから、口を開いた。
『うん、まぁ、そんなとこ。全然大丈夫。それより昨日、どうだった?楽しかった?』
「うん!めっちゃくちゃ楽しかったっ!聞いてよ、バンさんに頭ナデナデしてもらった…!やばくないっ!?」
『あははっ、超やばいね、それ。百、よく生きてたね』
「何回も殺されかけた…っ。バンさん、マジイケメン…!」
きらきらと瞳を輝かせながら言う百に、思わず笑みが零れてしまう。
なんだか、こんな風に百と普通の会話ができるのは、零にとって少し久しぶりに思えた。ここのところずっと、百に距離を置かれているんだろうと感じずにはいられなかったから。
「次はちゃんと、零も来てよ!」
『えっ……あ、うん』
「約束ね」
小さく頷けば、百は八重歯を見せて笑った。
そんな百の笑顔に、心にぽっかりと開いたままだった穴が満たされていく。昔に戻れたみたいで、心の底から嬉しくなって、なんだか少し泣きそうになった。
「零?」
『うん……、うん。約束』
泣きそうな顔をごまかすようにして、くしゃりと顔を歪めて笑ってみせた。安心したようにもう一度笑う百に――なんでだろう、どうしようもなく、触れたくなったんだ。