第18章 奏でるモノクローム
『……はあ』
小さなため息が、静かな部屋に木霊する。
万理に寮まで送ってもらってから、零はひとりベッドに寝転んで王様プリンの抱き枕を抱き締めていた。
『百のやつ、万理さんとちゃんと仲良くやれてるかな……。緊張ばっかりして、千ちゃんと万理さんにやきもち妬いたりしてないかなぁ』
ぶつぶつと独り言をいっていれば、携帯の着信音が鳴る。慌てて画面を見てみれば、相手は天からで。
『もしもし!』
<……もしもし。仕事、終わったの?>
『うん!さっき家ついた。どうしたの?』
<さっき、二階堂大和たちが遊びに来てくれたよ>
『ああ!聞いた聞いた。大和くんと、環と、三月くんと、壮ちゃん、だよね?私も陸も、今日はスケジュールが合わなくて…。行けなくてごめんね。どう?楽と龍との三人暮らしは?』
<……最悪>
『あはは……。天はそう言うと思った』
<……で、零はいつ来るの?>
『そうだなぁ…みんなのスケジュール合う日がなかなかなくて……』
<……。……零の作った、ドーナツが食べたい>
『え?』
<昔、作ってくれたでしょう。ドーナツ>
天の言葉に、零はぎょっと目を見開いた。
――昔、天に頼まれて、ドーナツを作ったことがあった。案の定、料理の下手な私の作ったドーナツは、中は生焼け、外は真っ黒焦げ、なんてひどいもので、とてもじゃないけれど美味しいと呼べるものではなかった。けれど、天は構わずぱくぱくとすべて平らげて、また作ってね、なんて言ったんだっけ。
『……いや…言っておくけど私、あれから全然上達してないよ…?』
<いいから。いつなら空けれるの?>
『うーん……。明日の夜とか?』
<わかった。待ってるから>
『えっ、ちょっと待っ――』
ぶち、と電話は一方的に切られてしまって、零は困ったように眉根を下げながらはあ、とため息をついた。
そのとき、寮のチャイムの鳴る音がして、部屋の外が急に騒がしくなる。TRIGGERの家を訪ねた大和たちが帰ってきたのだろう。おかえりを言おうと部屋の扉を開けてから、零は思いついたようにダッシュした。