第18章 奏でるモノクローム
「いいんだよ、百くん。そんな百くんだからいいんだ。もし、零ちゃんの相手が千みたいな奴だったら、俺は平常ではいられなかった。全力でさよならする方向に持って行ってたよ」
「ちょっと、ひどくない?僕だって相手が零だったら、ちゃんと大事にするよ」
「いいや、お前にだけは任せられない」
「ぷっ……」
千と万理の会話に、不安げだった百の表情が柔らかい笑顔に変わる。そんな百に、万理がゆっくり口を開く。
「……きっと、百くんも、零ちゃんも。たくさん考えたんだと思う。君達が出した答えにこれ以上とやかく言うつもりはない。だから、俺の独り言だと思って聞いてほしいんだけど…」
「はい……」
「中にはちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないこともあるんだよ。優しい二人だから、何よりも相手のことを考えて、尊重して、我慢してるんだろうなってのはよくわかる。でも、ほんの少しでいいから、自分の素直な気持ちを言ってみてもいいと思う。そこで初めてわかることだって、あると思うから。相手のためによかれと思ってしたことでも、実際蓋を開けてみたらそうじゃなかったことってあるだろ?」
「……。でも、零は優しいから……。オレに気を使って、自分の本当の気持ちを隠すと思います…」
長い睫毛を伏せながらそう言う百の頭を、万理は優しく撫でてから、言った。
「大丈夫。零ちゃんは、百くんに嘘は吐かないよ」
「……バンさんっ……」
百の大きな瞳から、大粒の涙がはらりと零れ落ちた。
そのとき、パシャ、と横でカメラのシャッター音が鳴り響く。驚いた万理が振り向けば、千が澄ました顔でスマホを二人に向けていた。
「万が、モモを泣かせた。零に報告しなきゃ」
「は?……やめろ、それじゃ俺がいじめたみたいになってるだろ!?」
「くくっ……いい絵がとれた」
「千、携帯貸せっ!」
じゃれ合う二人を見ながら、百はごしごしと涙を拭いて、満面の笑顔で笑った。
「…あははっ……!バンさん、ユキ……。本当に、ありがとう……っ」
久しぶりに見せた百の心からの笑顔に、千と万理は安心したように顔を見合わせてから、つられたように笑い合ったのだった。