第18章 奏でるモノクローム
「……零ちゃん。一つ聞いてもいいかな?」
『はいっ!』
「……本当に、それで良かったの?」
万理の問いに、零は一瞬表情を曇らせてから、仕方なさそうに笑ってみせた。
『……私、百のこと傷つけてばっかりだったから。あんなに優しい百のこと、困らせて、悩ませてばっかりで……。きっと、思い上がってたんです。百はずっと側にいてくれるって…そう信じて疑わなかったんです。ずっと一緒だって思ってました。何をするのにも一緒で、どこへ行くのにも一緒だった。知らないことなんて何もないと思ってた。でも、そうじゃなかった。百の彼女になって、百の知らないところをたくさん知りました。自分がどれだけ今まで百に助けられてきたか、どれだけ自分にとって百の存在が大きかったか、改めて知りました。でも、気付くのが遅かったんです。気付いた頃には、百のこと、たくさん傷つけた後でした』
「………」
『辛い、って言ったんです。あの百が…。絶対弱音なんて吐かない百が……。私、なんてことしちゃったんだろうって……っ、……頭が真っ白に、なって…っ……』
ぽろ、ぽろと透明な水滴が、瞬きと一緒にはじき出された。溜まっていた涙が崩れて、光の糸を曳きながら溢れていく。
小さな唇を震わせながら言葉を紡ぐ零の白い頬に、万理がそっと手を伸ばす。
「……辛かったね……。気付けなくてごめん。何もできなくてごめん…」
『…っ、すみません…っ、謝らないで、万理さんは何も悪くないです……』
―――彼女のために、自分に何ができるだろう。
いくら考えても、仕方のないことはわかっていた。だって、彼女の涙を拭ってやれるのも、抱き締めてやれるのも、自分じゃない。彼女を笑顔にしてやれるのも、幸せにしてやれるのも、世界にたった一人、彼だけなのだから。