第17章 雨と月と輪舞曲を
「――……っ…、すみません……。…みなさんに、出会えたことが、本当に……。本当に、嬉しいです。…何かを欲しいと思って、歌ったことは、一度もありませんでした。報われたいと、思ったことも…。…だけど…、今夜…。たくさんの、本当に、たくさんのものをもらった気がします。みなさんの気持ちが嬉しかった。…ありがとう……。……うた、歌ってて、良かった……」
―――土砂降りの中で、天が泣き笑う。
雨に濡れた三人の姿が、街の火に光ってきらきらと輝いて見えた。
天は、とても、とても嬉しそうで。
どんよりした雨雲のなか、水の跳ねる路面の上で歌うTRIGGERは、悲しかったはずなのに。
口々に聞こえてくる嘲笑が腹立たしかったはずなのに。
どうしてだろう。
天を見ていたら、幸せな気持ちでいっぱいになったんだ。
惜しみなくTRIGGERを応援する歓声が、あちこちから確かに聞こえてきて
雨音も、雑踏も、雑音も。この街の音すべてが、拍手みたいに思えたんだ。
『……頑張って……頑張って、天……!頑張って、TRIGGER……っ!!』
気付けば、何度もそう叫んでいた。
―――天はきっと、ファンの子たちを傷つけてしまったことを、ずっと申し訳なく思っていたんだろう。
どんな風に責められることも、覚悟していたんだろう。
でも、返ってきたのは、優しくて、温かい、力強い言葉だった。
だから、みんなの優しさが嬉しくて、天は泣いてるんだよね?
感謝してるんだよね。名誉や、栄光を失っても、支えようとしてくれている人たちの眼差しに。
みんなに愛されて、幸せなんだよね――。
『……天……っ』
名前を叫べば、ふと、天がこちらを見たような錯覚に陥った。
きっと、多分、気のせいなんだけど。ライブ中に、目が合った!なんて勘違いしてしまうよくあるパターンのやつなんだけど。
天は涙と雨に濡れた顔を歪めながら、幸せそうに笑ったんだ。
瞬間、胸が熱くなって、気付けばぼろぼろと大粒の涙が頬を垂れていた。