第17章 雨と月と輪舞曲を
―――その日の雨は、突然やってきた。
先程までの爽やかな秋空が嘘のように、陽の暮れた街中を銀の糸が包み込む。
『………雨…』
零がぽつりと呟けば、ワイパーが車を軋ませる音が車内に響いた。
窓ガラスにはぽつぽつと雨粒がつき、重くなった水玉がゆっくりと下に垂れていく。
「夕立かな。今夜は冷えそうだね」
万理の声に耳を傾けていれば、ふと、街中にできている小さな人だかりを視界の端に捉えた。
『………』
路上ライブか何かだろうか。そんなことを考えながら、ぼけっと街を見つめていれば、小さな仮設ステージの上に立つ見慣れた姿に思わず目を見開いた。
『………嘘……っ、万理さん、車停めてください!!』
「え!?」
『お願いします…!!TRIGGERが…TRIGGERがいるんです!!』
零の必死な訴えに、万理は慌てて車を停める。
『……っ』
車が停まった瞬間、零は帽子を深く被り直して、傘も持たずに飛び出した。
「あっ…、ちょっと零ちゃん!?」
遠くなっていく万理の声を背に、雨の中、ステージへと夢中で駆けた。
雨は容赦なく肌に当たり、ぱしゃぱしゃと音を立てて跳ね返る。体の芯まで冷えてしまいそうな雨のなか、ステージの上に、TRIGGERはいた。