第17章 雨と月と輪舞曲を
「さあ、天。ここにサインをして」
契約書を手に、九条が天に言った。
「僕と君との契約書だ。これからは、僕が直接君のマネージメントをしていくよ。ゼロのようにね」
そう言う九条に、天は真剣な眼差しを向けながら口を開く。
「……九条さん」
「なんだい」
「TRIGGERを抜けるつもりはありません」
「……TRIGGERなんてもう存在しないよ」
「存在してます。ボクと楽と龍がいる限り」
「あんな二流と組む必要はない」
「ボクは彼らを二流だとは思いません」
「…レッスンし直しだな、天。いつからそんなに採点が甘くなったんだ?」
「九条さん……。お願いです」
「君は僕とやるんだ!そう約束したじゃないか!」
急に声を張り上げる九条に、天は目を見開いた。
九条は捲し立てるように続ける。
「約束を破るのか!?ゼロのように僕を置いていく気だな!?そうやって、どこかに行ってしまうんだ!!僕から逃げないように、養子にまでしたのに、あんまりだ!ひどいじゃないか!ひどいよ、天……!!うう……っ、ううぅーっ……」
泣きだす九条を落ち着かせるように、天は背中を撫でながら口を開いた。
「九条さん、違います!誤解です。こう考えてください。ボクがTRIGGERを抜けないことは、ゼロのように、無責任に消えないという証明です」
「…証明…?」
「TRIGGERを捨てるボクは、いつか、あなたを捨てるかもしれない。そうじゃないことを、九条さんに証明したいんです」
「………」
「いなくなったりしません。あなたの夢を必ず叶えます。安心してください、九条さん……」
「……そうだった。天はそういう子だったね。だから、キミを選んだのに忘れていた…。大声をあげてごめんね」
「いいえ。こちらこそ、不安にさせてすみません」
なんとか落ち着きを取り戻した九条に、天は続ける。
「…約束します。たとえ、弟が、TRIGGERのメンバーが、九条さんが、……零が。死にかけているときでも……ボクはステージに立ちます。どんな事情があっても…絶対に、ステージを捨てません。…”終わらないアイドル”に――ボクは必ずなってみせます」
―――九条さんの夢は、ボクが終わらせなきゃいけないんだ。
次の夏までに、ボクがゼロになって――九条さんの夢を、終わらせる。