第17章 雨と月と輪舞曲を
『天なら…TRIGGERなら……絶対、絶対、大丈夫だよ!幼馴染のお墨付き!』
「……ありがとう、零。……もう、迷ったりしないよ」
――今度こそ。キミとの約束を守らせて。
「……遅くに呼び出したりしてごめん」
バーを出て、迎えのタクシーに乗り込もうとする零に言えば。
『何言ってるの!会えて嬉しかった。天の話が聞けてよかったよ。落ち着いたら、みんなでパーティしようね!』
「……うん」
『あ、あとさ、万理さん、元々インディーズだったでしょ?その辺詳しいから、よかったら今後の活動のために聞いてみて?万理さんに許可取ってあるから!連絡先、後で送っておくね』
「ありがとう。すごく助かるよ。姉鷺さんに伝えておく」
『うん!……天、待ってるからね。私、諦めてないよ。絶対また、同じステージで歌おうね』
「うん」
零の言葉に微笑んでから、天は夜空を見上げて、ぼそりと呟いた。
「……月が、綺麗だね」
『え?』
「……なんでもない。気を付けて。またね」
『あ、うん!ありがとう!天もね!』
―――遠回しに囁いた愛の言葉の意味は、きっと伝わらないのだろう。だけど、それでいいんだ。……だって、いかにもボクらしいと思うから。
車の中に乗り込んだ零が、窓から顔をだしてずっと手を振っている。そんな健気な彼女の姿に思わず笑みが零れて、つい表情筋が緩んでしまう。
遠慮がちに手を振り返せば、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
青白い月明かりに照らされた彼女の笑顔は、とても、とても綺麗だった。