第17章 雨と月と輪舞曲を
『天…っ!!ごめんね、遅くなって』
バーの階段をぱたぱたと駆け下りてくる零の姿を視界に捉えて、天は仕方なさそうに笑いながら駆け寄った。
「……走らない。転んだら危ないでしょう。ただでさえドジなんだから」
慌てて階段を駆け下りてくる零に向かって、手を伸ばす。
零は嬉しそうに笑ってから、天の手を取った。
『あはは、ありがとう、天!』
眩しい笑顔に、つい目を細める。
―――彼女の笑顔に、また揺らいでしまいそうになって、やっぱり会わなければよかったかな、なんて、そんなことを思った。でも、彼女に会えば。自分の中での迷いが、なくなる気がしたんだ。
「……こんな時間にごめん」
『ううん。むしろありがとう。天の顔が見れてよかった』
「……。…会ったばかりなのに、過去形にしないでくれる?」
『あ、ごめん!!』
「…ふふ、冗談だよ。何飲む?リンゴジュース?」
カウンターで二人分のリンゴジュースを作ってから、バースツールに並んで腰掛けた。グラスを交えて、リンゴジュースを喉の奥に流し込む。一段と甘酸っぱく感じるのは、彼女が隣にいるからだろうか。
『……ミュージックフェスタ、見てたよ。楽と龍は元気?これからも、三人で一からやっていくんだよね?』
零の問いに、困ったように笑ってから天が口を開く。
「……ねえ、零」
『うん?』
「……理想のアイドルって、キミはなんだと思う?」
零はきょとん、としてから何かを思い出すように、優しく笑った。
『………終わらないアイドル…かな』
「終わらないアイドル?」
『うん。……アイドルは、夢なんだよ。夢の終わりなんて、誰も見たくないじゃん。伝説なんて賞賛よりも、日本一のトップスターじゃなくっても。顔に傷があったって、声が出なくなったって……。終わらないならそれだけでファンにとっては幸せなことなんじゃないかなって……そう思うよ』
「………」
『TRIGGERが、天が、ファンに見せた夢の続き……これからも、見せてくれるでしょ?天の中でも、答えはもう出てるんでしょ?』
「………どうしてそう思うの?」