第3章 交錯する想い
彼の夢はゼロを超えるアイドルを創り出すこと。それならば、ボクがゼロを超えればいい。そうすれば、零にまで被害が及ぶことはない。
零がもし自分と共に来てくれると言うのなら、側で守ってやれる。けれど、どうしても九条さんの元に来るのが嫌だと言うのなら。その時は、九条さんから見えないところに行かせるしかないと思った。
そして、ボクが九条さんの理想―――そう、ゼロになればいい。
犠牲になるのは、ボク一人で十分だ。
泣くほど苦しかったくせに。家族と、陸と。零を守るため。そう、何度も何度も言い聞かせて。
幼いボクには、そんなことくらいしか思いつかなかったんだ。
そう決めて、自分勝手に零を傷付けたくせに。
五年経った今でも、彼女を想わずにはいられない自分がいて。
なんて未練たらしくて、情けない男なのだろうか。世間の思っている九条天のイメージとはかけ離れ過ぎていて、自分に笑えてきてしまう。
TRIGGERとしてデビューして初めての音楽番組の共演者リストに、零の名前を見つけた時には飛び上がってしまいそうなくらい嬉しかった。
楽と龍の前ではなんとか平然を保って、震える手を握りしめながら、零の楽屋に挨拶しに行った。
そこには、五年前よりももっと、ずっと美しく育ったキミがいて
ボクは思わずその姿に目を奪われた。
―――でも。
昔と変わらないボクの大好きな笑顔は、別の人に向けられてた。
彼女の隣―――いつもボクがいた場所には、Re:valeの百さんがいて。
二人は、すごく楽しそうに笑ってた。
わかっていたことだった。
願っていたことだった、はずだった。
どうか変わらない笑顔のままでいてほしいと。幸せであってほしいと。
なのに。
感じたことのないどす黒い感情が湧き上がって来て、胸が締め付けられるように痛くて、苦しかった。
それ以来、彼女と顔を合わせることがあっても、目を合わせることができなかった。
目を合わせて仕舞えば、もう後戻りできなくなる気がして。ずっと抑えこんできたものが、全部溢れてしまう気がして。