第3章 交錯する想い
そんな二人の心配を余所に、楽屋を飛び出した天は早足でマネージャーの元へと向かっていた。
―――全く、迷惑な話だ。
それもわざわざ、"彼女"の出演している番組でそんなことを言うなんて。
途方も無い怒りと同時に、湧いてくるのは一つの興味。
彼女―――零は、それを聞いてどう思ったのだろう。
零の出ている番組は必ず録画してその日の夜に見るようにしているのに。昨日のNEXT Re:valeは、忙しくてまだ見れていなかった。
期待したって、無駄なことはわかっている。
けれど、もしかしたら、気にしてくれたかもだとか、ボクの名前に反応してくれたかもだとか、くだらない期待をせずにはいられない自分がいる。
―――"ボクの前から消えてよ"
そう言って、彼女を突き放したのは自分以外の誰でもないのに。
五年経った今でも、ボクは未だに彼女のことを忘れることができない。
どんなに忙しかろうと、どんなに仕事に打ち込もうと、彼女を思い出さない日なんて一日だってなくて。
忘れるどころか、彼女への想いは日に日に増して行くような気さえしている。
彼女の声が、笑顔が、甘い匂いが、柔らかな肌が、生温かい体温が。いつまでもボクの心を、掴んで離してくれない。
今でも度々、胸がむせ返るほどの後悔に襲われる。
あの時、彼女の言うことをちゃんと聞いてあげていたら。
あの時、あんな酷いことを言わなければ。
今でも彼女の隣で笑っているのはボクだったんじゃないか、と、思わずにはいられなくて。
考えたって仕方のないことなのに。眠れない時は決まって、こんなくだらないことに頭を張り巡らせては、同じように朝を迎える。
どんなに悔もうと、彼女を守るためにはああするしかなかった。何度そう自分に言い聞かせても、あの時の彼女の酷く傷ついた顔が、目に焼き付いて離れない。
九条さんに話をもらった時、初めは素直に零と一緒に行きたいと思った。だから嫌がる彼女を無理に説得しようとしてた。でも、九条さんと会う度に、彼の深い闇が垣間見えた気がして。彼はボクにも、零にも執着していた。零を手に入れるためなら、どんなことでもするんじゃないかと背筋が凍ったのをよく覚えている。