第17章 雨と月と輪舞曲を
「…っ、モモ、引っ張らないでくれ。せっかく久しぶりに零に会えたのに」
ずるずると百に引っ張られる形で連れてこられた了が、スーツを直しながら言った。
「……零には関わるなって言っただろ」
「え?もうモモには関係ないじゃないか!だって、零はTRIGGERに取られちゃったんだから」
「………」
「どう?愛する彼女を後輩に取られた気持ちは?悔しい?」
愉しそうに尋ねる了を睨みつけてから、百はゆっくり口を開いた。
「悔しいわけないだろ。零が幸せなら、オレはそれでいいんだ」
「あはは!モモはやっぱり、嘘つきだね!」
「嘘じゃないよ。了さんには、一生わかんないよ。本気で人を好きになるってことが、どんなことか」
面白くなさそうに話を聞く了に、百は続けた。
「…零を巻き込んだうえに、TRIGGERに妨害工作しやがって…」
「モモ。もうすぐ、予言がひとつ現実になるよ。TRIGGERはツクモのものになる。八乙女プロは堅実だ。息子のために会社をつぶしたりしない。僕のところに来たら、かわいがってあげよう。IDORiSH7、Re:vale、零も、僕のおもちゃにする。芸能史上最大のアイドルチームを作って、ZOOLを先頭に立たせるんだ。そして、熱狂する人々を眺めて、指をさして笑う。楽しそうだろ?」
「……あんた、嘘ついたろ。…あんたはアイドルに興味なんてない。アイドルが嫌いだろ」
「好意だけが興味の源とは限らないよ。それに、嘘つきは君達のほうじゃないか」
「な……」
「別に、どうだっていいんだけどね。……じゃあね、モモ。楽しみにしていてよ」
ひらひらと手を振って去っていく了の背中が見えなくなるまで、百はじっと睨みつけていた。
―――その日の夜。
八乙女社長は、TRIGGERをツクモから守るため事務所との契約を解除させることを決める。
事務所とTRIGGERが互いに負の影響を与え合っているこの連鎖を断ち切り、月雲に対抗するために――。
八乙女社長は、三人を信じていた。
事務所を失って、裸足になったとしても。彼らなら、ゼロから歩き出せると。
そして。
翌日のミュージックフェスタが八乙女事務所のTRIGGERとして最後のテレビ出演になったのだった。