第16章 アダムとイヴの林檎
「虎於くん!?どういうことなんだ!?君の電話を信じて会いに行ったのに…」
「あんたに電話なんかしてない。寝ぼけてたんじゃないか?それよりも、そろそろメッキが剥がれるぜ。あんたにうっとり夢見た女どもが、悲鳴をあげて、怒り狂うだろう。王子様が田舎の漁師の息子だったってな」
虎於の言葉に、龍之介は花巻すみれの件も彼にはめられていた事に気付く。
「……。ずっと、騙していたのか…」
「なんのことだ?」
「花巻さんは…!?」
「オワコン女の名前は忘れたよ。オレと結婚できると思ってたらしい。笑えないか?」
「……ッ、おまえ…!」
今にも飛び掛かりそうな勢いの龍之介を、後ろから姉鷺が押さえた。
そんな二人の様子を妖しげな笑みを浮かべながら見ていた了が、口を開く。
「カチコチカチコチ。耳を澄まして。ほら、聞こえてくるだろう。君たちの出番を知らせる時計の針の音。会場にいるお客さんが待ってるよ。スタンバイ、OK?」
「…あんたたちのしたことは、警察を通して、訴えさせてもらうわ!覚悟してなさい!」
「僕たちのしたことって?なにかあったのかい?ストーカーにでもあった?怖いね!」
愉しそうにそう言う了を睨んでいた龍之介が、ぐっと拳を握った。
「……天も、楽も、必ずやってきます。おまえたちの思い通りにはならない!」
「はは…。楽しみにしてるよ。僕も、観客も」
―――けれど。
楽と天が、この日のステージに立つことはなかった。