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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第16章 アダムとイヴの林檎




「虎於くん!?どういうことなんだ!?君の電話を信じて会いに行ったのに…」

「あんたに電話なんかしてない。寝ぼけてたんじゃないか?それよりも、そろそろメッキが剥がれるぜ。あんたにうっとり夢見た女どもが、悲鳴をあげて、怒り狂うだろう。王子様が田舎の漁師の息子だったってな」


虎於の言葉に、龍之介は花巻すみれの件も彼にはめられていた事に気付く。


「……。ずっと、騙していたのか…」

「なんのことだ?」

「花巻さんは…!?」

「オワコン女の名前は忘れたよ。オレと結婚できると思ってたらしい。笑えないか?」

「……ッ、おまえ…!」


今にも飛び掛かりそうな勢いの龍之介を、後ろから姉鷺が押さえた。
そんな二人の様子を妖しげな笑みを浮かべながら見ていた了が、口を開く。


「カチコチカチコチ。耳を澄まして。ほら、聞こえてくるだろう。君たちの出番を知らせる時計の針の音。会場にいるお客さんが待ってるよ。スタンバイ、OK?」

「…あんたたちのしたことは、警察を通して、訴えさせてもらうわ!覚悟してなさい!」

「僕たちのしたことって?なにかあったのかい?ストーカーにでもあった?怖いね!」


愉しそうにそう言う了を睨んでいた龍之介が、ぐっと拳を握った。


「……天も、楽も、必ずやってきます。おまえたちの思い通りにはならない!」

「はは…。楽しみにしてるよ。僕も、観客も」



―――けれど。


楽と天が、この日のステージに立つことはなかった。


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