第16章 アダムとイヴの林檎
――ツクモ本社ビル
「交渉しちゃだめだって」
資料室で、千がスマホを見つめながら言った。
「ヤバそうな人たちとか言うからだよ。おじさん、名刺持ってない?ちょっと、背広に手え入れるね」
先程のガラの悪い男は、見事に拘束されていた。
かつて、血のイヴ事件にて”狂犬”と呼ばれた百に、一人がかりで敵う訳がなかったのだ。ガムテープでぐるぐるに手首と足首を拘束されながら、男は三人を睨みつけている。
「…っ、離せ…!」
「あった!本名はわかったけど、すごいそれっぽい名刺だ…」
「見なかったことにすれば?」
『そうだよ。新しいの作っちゃえば?』
「だね!あそこに印刷機あるし、おじさんの新しい名刺作っちゃおう!職業は何がいいかな?」
「イラストレーター」
「ラブリーだよ、ユキ!」
『水玉模様の名刺にしちゃおう』
「いいね!熊倉さんって名前だから、熊さんのイラストも配置しちゃおう!」
「クマさんの横に、ハートマークもいれよう」
三人はきゃっきゃと楽しそうにデザインを考えながら、熊倉さんの名刺をシュレッダーにかけ始めた。
「てめえ、誰がイラストレーターだ!おい!ドヤ顔でレイアウト画面見せるな!勝手に人の名刺をシュレッダーにかけるな!」
「僕が可愛がってる子たちに、勝手に手を出したのは、おまえらだろう。あの子たちの居場所を答えろ。答えないと……」
言いかけてから、千がちらりと零と百を見る。
「……殴るぞって交渉?」
『脅迫だよね』
「訂正して!」
「ごめんね。不適切な発言がありました」
「イラストレーター熊倉さんに健全な交渉!テイク2!」
「イラストレーター熊倉さんのチャレンジ。3人を連れ去ったことを認めよう」
『イラストレーター熊倉さんのチャレンジその2。連れ去った3人の居場所を教えよう!』
「こっ、こいつら……!ふざけやがって……!!」
こうして、三人の健全な交渉の甲斐あってやっとTRIGGERの居場所を聞き出すことに成功する。
――公演開始まで、残り一時間。
ナギが龍之介の捉えられている場所を見つけ、巧みな話術と作戦で無事龍之介を救出することに成功。龍之介を急いでゼロアリーナへと向かわせた。