第16章 アダムとイヴの林檎
「………」
『駄目ですか…?』
「……月雲社長は、ただいま外出しておりまして……」
『そうなんですか……。じゃあ、このお部屋で待っててもいいですか?』
上目使いのまま、両腕を前で組んで自然に胸を寄せた。
千から先ほど指導を受けた、誘惑技その2である。
何度かツクモ本社に来たことがある百は、社長室のフロアにあるこの部屋が資料室だということを知っていた。この資料室に入ることができれば、了が所有している不動産で軟禁に使われそうな建物がわかるはずだ。
「……。…こちらの部屋は、ちょっと……」
『……いいじゃないですか。誰も見てないですよ』
そういって、零はぎゅっと社員の手を握った。
「!?」
『お兄さん、私のタイプなんです…。駄目ですか?ちょっとだけ』
「……っ、少し、だけでしたら……」
零は心の中でガッツポーズをしてから、ばれないように百に視線を送ってから小さく頷き、成功の合図を送る。喜んでくれるかと思ったのに、百は顔を歪めながらこちらを睨みつけていた。
『(あれ…。成功したのに……)』
ピー、と資料室の部屋のキーを開ける音が小さく響く。
社員に肩を抱かれて、部屋に入ろうとした、その瞬間。