第16章 アダムとイヴの林檎
百は、顕著に顔を歪めた。
了にアポを断られれるのは予想していたけれど、千のお色気作戦をもってしても駄目だったようだ。
『……よし、私の出番だね』
そういう零を、百は歪めた顔のまま見つめた。
「……ねえ、零……ほんとにやるの?」
『当たり前でしょ?なんのためにヌーブラ仕込んできたと思ってんの』
零は言いながら、シャツのボタンを三つ開けた。するとヌーブラで寄せた2cupほど大きくなった胸の谷間が露わになる。
「………」
本社に向かう車の中で、お色気作戦①は千の受付嬢誘惑、万が一それが駄目だった場合はお色気作戦②零の社員誘惑に決定したのだ。終始反対した百だったけれど、TRIGGERのためだと千と零の二人に説得され、なくなく受け入れたのだが…。
百は目のやり場に困りながらも、ちらり、と胸元を見やってから、ぷいっと視線を逸らした。平然を装ったふりをしていれば、ふと視線を感じて。おそるおそる振り向いてみれば、じーっと怪しげに百の顔を見上げる零と目があった。
「……ど、どうしたの?」
『……今、胸元見てたでしょ』
「……。……えっ!?き、気のせいじゃない!?」
熱くなる顔をごまかすように、百は再びふいと視線を逸らした。
『……。やっぱり、百はボインが好きなんじゃん』
「……は!?ちっ、ちがうよ!!」
『だっていま明らかに見てた!どーせボインがいいんでしょ!』
「だからちがうってば!零のだから見てたんだろ!?」
思わず出てしまった本音にハッとしてからおそるおそる視線を戻せば。そこには頬を桃色に染めながら瞳を潤ませ見開いている零がいて。
「……っ」
―――視線を戻したことを、盛大に後悔した。
こんなに可愛い顔をされて、もう、どうしろっていうんだよ。
『……な……なにそれ…。…ばか。百の変態』
零の言葉に雑念を振り払うように頭を振ってから、ごまかすように口を開く。