第16章 アダムとイヴの林檎
「いらっしゃいませ。……あ……」
千がツクモ本社のエントランスをくぐれば、受付の女性が驚いたように目を見開く。信じられないといった様子で唖然としている受付嬢に、千がにっこりと微笑んだ。
「こんにちは。了さんに会いに来たんだけど」
「……っ、Re:valeの千さん……!た……、ただいま、確認致します…!」
「よろしく。あ……」
顔を真っ赤にしながら慌てふためく受付嬢の首元に、千がそっと手を伸ばした。
「ここ。リボン曲がってるよ」
そういって、千は優しく笑った。
受付嬢の顔が耳まで赤くなり、彼女は更に慌てふためいている。
「…っす、すみません!…私ったら…恥ずかしい…!」
「そう?」
「ユキ、向こうで待ってるよ」
続いて入ってきた百と零が、後ろから千に声を掛けた。
「ああ。車の鍵持ってて」
「OK」
そういって、百と零はそそくさと本社へと入って行く。二人の背中を見送りながら、千が受付嬢に視線を戻した。
「あれ、僕の相方と妹……みたいに可愛がってる零」
「し、知ってます……毎週、NEXT Re:vale見てます……!はあっ……、今日仕事でよかった……」
恍惚とした表情で千を見つめる受付嬢の姿を遠目で見ながら、零がこっそり口を開いた。
『いけるかな?』
「いけるって!あの子、絶対ユキのファンだから。ユキのイケメンスマイルに悩殺されてるよ、今頃。だから、零の出番は――」
百がそう言いかけたとき、千がこちらを向いた。
そして、小さく首を横に振る。
『……だめだったみたい』
「………」