第16章 アダムとイヴの林檎
『……え…だって、みんなで一緒に行こう、って今決まっ――』
「絶対にだめ」
零の言葉を、百が強く遮った。
『………』
「だめ。それだけは絶対に許さない」
百の瞳は真剣で、そこにいつもの優しい百はいない。あの日了の家で居合わせた時に見せた、あの時の瞳だった。
『…でも……』
「絶対、天たちを助け出すから。約束する。だから……ね?」
『……。……嫌だよ。じっとただ待ってるなんて、そんなことできるわけないじゃん…!確かに私は女だし、お荷物かもしれないけど…女にしかできないことだってあるんじゃないの!?男にはできない、たとえば――』
「零。それ以上言ったら怒るよ。……冗談でもそんなことは言わないで」
言おうとしたことを悟ったのか、真剣な瞳のまま冷静に言う百。零は罰が悪そうに視線を反らしてから、三月たちの方へ行こうとすれば。ぐっと腕を掴まれた。
『…離してよ、百!』
「離さない。行かないって言うまで、絶対に離さない。零は女の子なんだ。こうしてオレに腕を掴まれても、振り払うことだって、逃げ出すことだって出来ない。…危険な場所に、行かせるわけにはいかないよ」
ぎゅっと掴まれた腕を見てから、零が顔をあげれば。怒ったような声音とは反対に、心底心配そうに眉を下げている百がいて。
『………』
「……お願い。零、行かないで。これだけは譲れない。お願いだよ……」
掠れる声で、泣きそうな顔で言う百をじっと見つめてから、零は小さくため息をついた。
『……ずるいよ。……百にそんなふうに言われたら、私が断れないの知ってるくせに…』
「ありがとう、零。ごめんね」
『うん……。でも、何かしたい。危険なことはしないって約束するから…。だから、何かできることをさせて。お願い』
「モモ。僕も」
二人の会話を聞いていた千が、口を開いた。
「三人でなら、大丈夫だ。前に言ったはずだよ、モモ。モモと僕で、零を守るって」
千の言葉に、百は困ったようにはあ、と息を吐いた。
「……わかったよ……。じゃあ、オレと一緒に来て」