第16章 アダムとイヴの林檎
そんな零の背中を、ぽんぽんと優しい手が遠慮がちに撫でた。顔をあげれば、そこには百がいて。百は安心させるように背中を撫でてから、口を開いた。
「大丈夫。心配しないで。オレが月雲社長と話つける。今までの借り、たっぷり返してくるから!」
「モモ、僕も行くよ」
『私も!私も行く』
突然そう言う千と零に、百が慌てて続いた。
「だめだよ!」
「どうして」
『なんで?』
「オレ、足速いだろ?ユキも零も、足遅いだろ?あいつが逃げてった時に全力で追ったら距離が離れちゃうだろ?」
「そうね」
『…確かに』
「そしたら、オレはユキと零のことが大好きだから追いかけるのやめて、二人の傍に戻っちゃうだろ……?何があったって二人を置いていくなんて、オレには絶対できないもん!!」
「『モモ/百………』」
そんな三人にとっては大真面目なやり取りをしていれば、横で聞いていた三月が思わず口を開いた。
「あの、先輩たちにこんなこと言いたかないんですけど…。今、そんな場合じゃねーから…!!」
「ともかく、ユキと零はお留守番!みんなもいい子だから留守番してて!」
『なんで!?百が行くなら私も行く!!』
「だからだめだって!あいつは毒素が強いんだ!知ってるだろ?かわいい零が穢れる!」
『また百が一人で背負うって言うの!?』
言い合う百と零に、大和が続く。
「零ちゃん、落ち着いて。女の子ってことを自覚しなさい。百さん、俺たちが一緒に行きますよ。未成年は置いていくとしても」
「IDORiSH7が穢れちゃう!だめ!」
「その社長さんってそんなに怖い人なんですか…?TRIGGERのみんなも、ひどい目に遭わされてますか!?」
「直接、暴力をふるったりはしないよ。頭はいい人なんだ。性格は最悪だけど」
そう答えてから、百と零は苦い顔を見合わせた。そんな二人を見ながら、三月が思いついたように口を開く。
「この際、どうですか?全員で乗り込んでやりましょうよ!だったら、危なくないでしょ?」
「だめですよ!兄さん…!」
「念のために聞いておくけど、おまえら、喧嘩できんのか?」
「だからだめですってば兄さん!」