第16章 アダムとイヴの林檎
「そろそろ仕上げだ」
高級マンションの一室。月雲了の部屋には、ZOOLの四人が集められていた。
「何の話だ?」
「君たちじゃない。TRIGGERの話さ」
虎於の問いに、了が答える。
「TRIGGERはサウンドシップをドタキャンした。一度なら、不慮の事故。二度あったら、不徳な人格のなせるわざ。TRIGGERのイメージを持ち直すチャンス。Re:valeにも、IDORiSH7にもできない、硬派な東京国際音楽芸術祭の出場だ。――それを欠席してもらうよ、TRIGGER」
「どんな風に?起死回生のチャンスだということは向こうもわかっているでしょう?」
巴波の問いに、了は口の端をあげながら愉しそうに口を開く。
「芸能事務所の社長になる前は、危ない連中と貿易業をやっていたんだ。そのツテを使って……TRIGGERを拉致する」
「……おい、犯罪にかかわるのはごめんだぞ」
「あはは。僕らは関わらないさ。TRIGGERは人気スターだ。ちょっとしたストーカーの仕業だよ」
了の言葉に、黙ってテレビを見ていた悠がふん、と鼻を鳴らした。
「……なんだっていい。あの親子の泣く顔が見られるなら。自分がやってきたことを、全部、否定されて、絶望すればいい」
「はい。それじゃあ、TRIGGERに電話してみたい人ー!」
了の掛け声に、虎於が不思議そうに首を傾げた。
「番号知ってるのか?俺は龍之介の番号知ってるけど」
「僕の友達のモモはちょっと緩くてね。スマホのパスワード、誕生日なんだよ。1111。電話番号、抜いちゃった」
そして、彼らはそれぞれTRIGGERの三人に電話を掛けた。
"TRIGGERへの攻撃を止めさせたいなら、一人で指定された場所に来い"――と。