第16章 アダムとイヴの林檎
「うわ……!こんなにたくさん…いいんですか?」
「おお、すげえ!これ、行列で買えないやつじゃん!」
「今日、別スタジオでラジオの収録でさ。早く終わったから、デパ地下回って、美味しそうなヤツ買い尽くしてきたっ!食べて食べて!」
「……ありがとうございます……本当に…」
泣きそうな龍之介を、よしよしと慰める楽。
「TRIGGERのお客さん、たくさん来てたよ。ファンの子たちは、みんな3人を待ってる」
「大丈夫、君たちを知っている人は、ちゃんとわかってるよ」
百と千の温かい言葉に、深々と頭を下げる三人。
零が手にもっていたお菓子を渡せば、顔をあげた天と目が合った。
「……零……」
『天……。TRIGGERが伝えてきたものは、どこにも消えてなんかないよ。天も、楽も、龍も、そういう仕事をしてきた。胸を張って、顔をあげて?』
零の言葉に、天は優しく微笑んだ。
「そうだね。過去の自分たちに、笑われることのないように。今すべきことはそれだけだ」
「ああ」
「そうだな」
楽と龍の返事に、百と千が続けてエールを送る。楽屋へとお菓子を運んでいれば、天が零の背中をつん、と小突いた。
振り返ってみれば、優しげに目を細めている天がいて。
「……零、来てくれてありがとう。元気出たよ」
そういって、天は笑った。
―――どうしてだろう。
そのときの天の笑顔が、今にも消えてしまいそうなくらい儚く見えたんだ。