第16章 アダムとイヴの林檎
翌日から、街やメディアは華々しいデビューを飾ったZOOLの話題で溢れ返っていた。
TRIGGERの件で沈下しかけていたアイドルブームを盛り返すような、それはまるでTRIGGERとZOOLのコマをすり替えるような、そんな形で――。
「社長、大変です!!」
八乙女事務所の社長室で、姉鷺の悲鳴が響いた。
「……今度は何だ」
「花巻すみれから社長と二人で話したいと連絡があったんです…。今回の件で反省して、パニックを起こしていて」
「事務所に来いと伝えろ」
「マスコミから守るために、彼女は都内のホテルに宿泊しています。マスコミが怖いから、部屋に来てほしいと…」
「馬鹿か!そんなわかりやすいトラップに引っかかるものか!」
「でも……。死にたいって……」
「こっちが死にたいぐらいだ!仕方ない。事務所の女子社員を連れて…」
「今日は休日ですから事務員はお休みです。私がこっそり同行しましょうか?」
「いや……おまえはだめだろ」
八乙女の言葉に、きょとんとする姉鷺。
「どうしてですか?」
「男か女かよくわからないじゃないか」
「まあ、失礼!!セクハラですわ!!私の王子様ならそんなこと言わないのに!!」
急に怒り出す姉鷺をなだめるように、八乙女が続ける。
「わかった!私が悪かった!だが、私一人で行くわけにはいかない…。事務所に来るよう説得してくれ」
「十分、説得しました。社長が一人で来てくれないなら、もう死ぬって…」
「口だけだろう?」
「わかりません…。追い詰められているのは本当ですから」
八乙女は険しい表情で”車を用意しろ”と姉鷺に静かに言った。
「……行くんですか?」
「人命には変えられない」
「社長……。ホテルのフロアに人員を配置します。社長に不名誉な写真は決して撮らせません」
「頼む」