第16章 アダムとイヴの林檎
「…!姉鷺さん、おはようございます!」
たまたま同じ収録現場に居合わせた岡崎と紡がスタジオの廊下を歩いていれば、視線の先に姉鷺の姿を見つけた。二人は慌てて駆け寄り声を掛ける。
「大丈夫ですか…?十さんに、天さんの……」
「……あんたたち……。まずい状況よ。社長もぴりぴりし始めてるわ……」
姉鷺は言いながらはあ、とため息を吐く。そんな姉鷺に、岡崎が続く。
「八乙女社長も怖いんでしょうね。今まで援助を受けていたツクモを相手にしてますから……」
「これまで、どのメディアも蜜月状態だった。ツクモに勝てると確信してたの。なのに、蓋を開けてみれば……」
「……みんな、向こう側についた」
岡崎の言葉に、姉鷺は顔を歪めながら頷いた。
「天さんの件も、ツクモが関わっているのでしょうか……」
「おそらく間違いないわ。あのドラマの話も、本当に突然だったのよね。主役のキャスティングが急遽変更になるなんて、それこそおかしな話だったのよ。有名な漫画の実写化で、零とダブル主演。こんな良い条件の話が急に舞い込んでくるなんて、その時点で違和感に気付いて対処すべきだったんだわ……為てやられたわよ」
「……そんなにツクモの力は大きいんですか?人気アイドルのTRIGGERや八乙女事務所さんよりも……?」
紡の問いに、姉鷺が肩を落としながら続ける。
「……二大帝国といわれた事務所よ。だけど、最近急に力が強まった気がする。社長が変わったせいかしら。こうなることをわかってたように、CMや出演番組の数も減ってるの。なんだか怖いわ……」