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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第16章 アダムとイヴの林檎






「零、おはよー!」


名前を呼ぶ声に振り返れば、そこには衣装に着替えた百と千が立っていて。


『おはよ…!百、千ちゃん』


笑顔でそう返せば、百がばたばたと駆けてきて、興奮したように口を開いた。


「零、ドラマ全部見たよ!すっっごい良かった!!めちゃくちゃ感動した!!」

『あ……ありがとう…っ』

「天と零、めちゃくちゃ似合ってた!!やっぱりしっくりくるよ!こんなに似合う二人、世界中探したってどこにもいないよ!?」

『………え……似合うとか、そんな…』


百の言葉に、思わず苦笑していれば。


「……応援してるから。週刊誌なんかに負けないで。零と天なら、絶対大丈夫」

『………』


百の言葉と、真剣な瞳に。

何も言い返すことができなかった。


”似合ってるよ”、”応援してる”、”負けないで”、”大丈夫”。


――私を元気づけようと、百が一生懸命言ってくれてるのはわかる。でも。その言葉には、一つも百がいない。一つも、百とじゃない。
今までずっとどんなことだって、百と一緒に乗り越えてきたのに。今までは、ずっと、百が一緒だったのに。


もう、百は。

私の傍にいることなんて、望んでないのかな?


『あ…はは……っ、…そういうんじゃなくて、天は幼馴染だから――』

「龍之介のことに続けて、天も相当参ってると思うんだ。だから、側に居てあげて。それができるのは、零しかいないんだから」



百は私の言葉を遮ってそう言うと、優しく微笑んだ。


――これ以上、もう何も言えなかった。



『………』

「落ち着いたら、みんなでご飯行こ!……それじゃ、今日も頑張っちゃうよ!」


そういって、撮影セットに向かっていく百。


――なんだか、百が随分と遠いところに行ってしまったような、そんな気がした。


手を伸ばさないで、と。触れないで、と。遠回しに言われているみたいで。




この日の収録のことは、あんまり憶えていない。

ただひたすらに笑顔を作るのに必死だった。少しでも気を緩めたら、自分が自分でいられなくなってしまう気がしたから。



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