第16章 アダムとイヴの林檎
「おはよう、モモ」
言いながら千が控室のドアを開ければ、机の上にだらん、と項垂れていた百が慌てて飛び起きた。
「……ユキっ!…っおはよー!今日もイケメンだね!」
「………」
明らかに落ち込んでいたのをごまかす様子の百に、千ははあ、と小さくため息を吐いた。
「…週刊誌なんて信じてるのか?」
「………え?なんのこと?」
「とぼけても無駄だ。バレバレだよ、モモ」
「……あはは……」
千の言葉に百は苦笑してから、口を開いた。
「……落ち込んでないっていったら嘘になるよ。……でもさ、オレ、零が幸せならそれでいいって思えるんだ。天は本当にいい子だよ。オレも天のこと大好きだもん。大好きな二人が幸せになってくれたら、こんなハッピーなことってないじゃん」
百の言葉に、千が続ける。
「自分の気持ちを押し殺してでも、そう思えるのか?」
「……うん。オレの幸せってなんだろう?って考えたときに、零が幸せでいることなんだって、素直にそう思えた」
「………」
「本当だよ。零の幸せが、オレの幸せなんだ。本当に人を好きになることって、こういうことなんだなって思った。……零は本当に、オレにとっての初めてがいっぱいだよ」
百はそういってから、目を細めて嬉しそうに、だけどどこか寂しそうに笑った。
「……零がそう言ったの?天くんといるのが幸せだって」
「言ってないよ。でも、わかるもん」
「またそれか。モモ、おまえはこのままで本当にいいのか。運動部だって、元はといえば――」
千がそう言いかけたとき、控室の扉がノックの音と共に開いた。
「Re:veleさん、そろそろお願いします!」
スタッフの声に返事をしてから、千は心配そうに百を見やる。百はそんな千の気持ちを汲み取ったのか、安心させるように笑ってみせた。