第16章 アダムとイヴの林檎
『もしもし、天?』
<……零。……ごめん。ボクのせいだ>
電話の向こうから聞こえてきた天の声は、ひどく沈んでいて。胸が締め付けられるみたいに痛んだ。
『やめて。天のせいじゃないよ。アイドルやってたら、熱愛報道なんてよくあることじゃん!今は騒がしいけど、こんなの一時だけだし、落ち込むことないよ。大丈夫』
<……軽率だった。いくら人がいなかったからって、距離を詰め過ぎたボクの責任だ。本当にごめん>
『ううん、天は私を慰めようとしてくれただけじゃん。それに、私達、ただ話してただけだよ?それなのにありもしないことでっちあげて好き勝手書いてるのは週刊誌じゃん…。おかしいよ、こんなの。天が謝るとかやめてよ!それに、まさか撮影スタジオの中で隠し撮りされるなんて、誰も思わない』
<……迷惑かけて本当にごめん。……百さんとは連絡取ってる?>
『え?あ……昨日、龍のことでメール入ってたけど…。ていうか!龍の件もだけど、大丈夫?』
<…そう。うん、大丈夫。ボク達のことはいいから、零は自分の心配して。百さんに勘違いされたままじゃまずいでしょう>
『え……それは、大丈夫だよ……週刊誌なんて信じないって』
<大丈夫じゃないでしょう。キミが百さんの立場だったらどう?百さんが他の誰かと熱愛報道が出たら?嫌じゃないの?>
『…それは………』
<ちゃんと弁解して。ボクからも謝っておくから>
『いや…いいよ!!』
<良くない。ちゃんとして。自分の大切な人を傷つけないで。…傷つけてから後悔するんじゃ遅いんだから。…ボクみたいに>
『え?』
<…なんでもない。わかったね?それじゃあ。また連絡する>
そういって、電話は一方的に切られてしまった。
―――天は、こんな時でも私の心配をするんだね。
つくづく天の優しさに胸が温かくなる。
でも、百に弁解するってどうやって?今は付き合っているわけでもないのに。
今日は、NEXT Re:valeの収録の日だ。ドラマの撮影やらで忙しくしていたせいで、百に会うのがなんだか久しぶりに感じて、緊張してしまう。
「――零ちゃん、そろそろ準備しておいで」
万理から掛かった声に返事をしてから、気持ちを切り替えるようにぱちんと両頬を叩いた。