第16章 アダムとイヴの林檎
「――零さん、お疲れ様ですっ!」
そんなことを考えていれば、慌てて事務所に出社した紡から声が掛かる。
『紡ちゃん……』
「心配で駆けつけてきました……!これ…あきらかに隠し撮りじゃないですか……。訴えることはできないんですか…?」
そういう紡に、万理が答える。
「紡さん、おはよう。抗議文は勿論送ったよ。でも、報道の自由に基づいて訴訟は難しいんだ。いくら共演者やスタッフの中だけに絞ったとしても、人物を特定するのは至難の業だしね。特定できたとしたって、なんとしてでも事務所側が揉み消すだろう。証拠なんてとっくに消されててまず出てこない。でも、単独犯の可能性は低いよ。写真を撮るタイミングも、場所も、全部しっかり計算されてる……初めからこうなることがわかってたみたいに」
『………』
肩を落とす零の背中を紡が優しく撫でる。
「それにしても、ここ最近の報道に違和感を感じます……あからさまな叩き方にも…。十さんの次は天さん……それに」
『…それに?』
「先日、楽さんから言われたんです。最近、私と楽さんを噂させようとしている人が多い、と。私も感じてたんです……。だから、しばらく連絡取るのも、話しかけるのも控える、って……」
紡の話に、零は目を見開いた。
―――月雲了の狙いは・・・TRIGGER?
胸騒ぎがする。なんだか、とても良くないことが起こるような、嫌な予感に背筋が凍る。その時、ポケットの中の携帯電話が鳴った。
慌てて画面を見てみれば、天の名前が表示されていて。紡と万理に一言いってから、応接間を出て電話に出る。