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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第16章 アダムとイヴの林檎



『……嘘……』

「朝から社長が八乙女事務所と連絡を取り合って、今さっき週刊誌に抗議文を送ったところだよ。落ち着くまでは報道陣が押し掛けるだろうけど、何も答えられません、の一点張りで通すことになってるから。しばらく騒がしくなるけど、負けないで。大丈夫、俺たちが守るからね」


万理の声は優しいけれど顔つきはどこか険しくて、この報道がいかに自分にとって、そして天にとってマイナスなイメージかということが伺えるようだった。

零にとって、今まで世間に出た熱愛報道は百とのものばかりで、そのどれもが飲食店に入って行くところだったり、千と三人で出掛けているところだったり、そんな曖昧なものばかりだった。
決定打が撮られたことがなかった上に、批判もほとんどなかった。メディアを騒がせるというよりも、”プライベートでも二人は仲良し”というほっこりしたイメージを与えるような、そんな報道の仕方だったからだ。

けれど。

今回は、報道の仕方が露骨に攻撃的だ。それも、特に天に対して。
記事を読んでみれば、あることないことが批判的に書かれていて、とてもじゃないけれど見ていられない。略奪愛、二股、三角関係、先輩への裏切り、そんな文字ばかりが飛び込んできて、龍之介と花巻のこととも無理矢理関連付けられている。Friends dayを控えている自分たちにとって痛手であることは確かだった。


「それにしても、やり方が汚すぎる…。あることないこと書いて、無理にこじつけて。これ、モザイクがかかったりうまく切り取られてわからないようになってるけど、ドラマの撮影の時のだろ?共演者の誰かの仕業としか思えないよ。一体誰がなんのためにこんなこと…」

『……これ、休憩室で天と話してた時の…。こっちはVチェックの時の…。でもなんで、どうやったらこんな写真が』


言いかけて、脳裏にふとある人物の一言が浮かんだ。


―――”「一階の休憩室、空いてましたよ。Vチェックまで時間ありますし、それまでそこで休まれたらいかがですか?」”


あの時は、彼の言葉に何も疑わなかった。けれど、思い返してみればどこか不自然な違和感が胸を支配する。

昨日、"龍之介が花巻すみれにはめられたのも月雲了の仕業だ"、と百からメールが入っていた。ならば、このタイミングでの熱愛報道も、月雲了が仕組んだことなのだろうか。

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