第16章 アダムとイヴの林檎
prr...と着信を知らせる音が、静かな部屋に鳴り響いていた。
『んー……』
零は重たい瞼を擦りながら、布団の中から手を伸ばす。ベッドの脇のテーブルに置いてあったスマホを取ってから、おもむろに着信ボタンを押した。
『もしも――』
「零ちゃん、すぐに着替えて裏口から出てきて」
受話器の向こう側から聞こえてきたのは万理の声だった。
いつものように優しい声ではなく、どこか慌てているようなそんな声音に、何事かと体を起こす。
『何かあったんですか……?』
「……今朝発売の週刊誌に、熱愛報道を抜かれた。写真付きで」
『え……、また百ですか?千ちゃん?最近、会ってな――』
「――TRIGGERの九条天くんだ」
万理の口から出た名前に、大きく目を見開いた。
電話を切ってから、部屋着の上にパーカーを羽織ってすぐ寮の裏口へと走った。そこには既に万理が立っていて、朝だというのに外はなんだか騒がしい。裏口からこっそりすぐ近くにある事務所へと急ぐ。
応接間に入れば、デスクの上には付箋の張られた週刊誌が何冊か並んでいて、付箋の場所には”九条天、零と熱愛!二人は幼馴染だった!?略奪愛、Re:valeとの三角関係”などという文字と共に天と零の写真が大きく載せられていた。
『……これ……』
天が零の腕を引いている写真や、肩を並べて楽しそうに話している写真。一緒にスタジオを出る時の写真など、周りの背景はうまい具合にモザイクがかけられているが、間違いなくドラマの撮影の時のものだと確信する。