第16章 アダムとイヴの林檎
―――とある、バー。
「……どうしよう……。IDORiSH7の二階堂大和さんから、連絡がきたの。事情は大体わかってるって……。本当のことを話す気はないかって」
悩ましげにそう言ったのは、花巻すみれだった。
その隣に座ってマティーニを嗜んでいるのは――御堂虎於だ。
「へえ。好きにすればいいんじゃないか?」
「好きにすればなんて……私だけのことじゃないんだよ。二人のことでしょ?私と結婚してくれるんだよね!?だから、引退する覚悟決めたんだよ!?」
「どうかな?押しつけがましい女は好きじゃない」
「……っ、ごめんなさい……私、怖くなっちゃって……嫌いにならないで……」
「はは……。何も心配することはない。おまえは、俺に選ばれた女だろ?からかってやればいい」
嬉しそうに虎於に抱きつく花巻。
当の虎於の顔には、冷ややかな笑みが浮かんでいた。