第16章 アダムとイヴの林檎
―――その頃。
龍之介は、御堂虎於の紹介で花巻すみれと会っていた。虎於も来るはずだったのだけれど、何故かそこにはやつれた花巻すみれ一人しかおらず。
不思議に思っていれば、花巻は突然、”歌手をやめたい”と言いだした。そこで、今の事務所であるツクモプロを辞めるために話し合いをするから、そこに龍之介にも同席して欲しい、と。
龍之介は快くこの話を引き受けることに。
そんな中、偶々聖地巡礼をしていたらしいナギに出くわし、ナギも協力すると自ら提案するも、花巻がそれを露骨に拒否。なかなか引き下がらないナギに痺れを切らしたのか、花巻はすぐにマネージャーに電話を掛け、龍之介に代わりに出てほしいと無理矢理電話を渡した。戸惑いながらも龍之介が話せば、マネージャー側から返ってきた言葉は、おどろくほどあっさりとしたものだった。
”今直ぐ契約解除をする代わりに、八乙女プロで責任を持ってくれ”、と――。