第16章 アダムとイヴの林檎
「「こんにちは、Re:valeでーす!」」
百と千の声が、八乙女事務所の社長室に響いた。
百と千を交互に見てから、八乙女は僅かに顔を歪める。
「千も来たのか……。呼んでないぞ」
「つれないな。チャリティレンソンのために体力づくりで一緒にジムに行ってたんだよ」
「運動するユキ、超イケメンだった!プールで25メートル泳げたんだよね!」
「25メートル泳げた」
「うちの息子は小1の時に泳げたぞ」
八乙女パパの言葉に、むっとする千。そんな千の視線を受けながら、八乙女は続けた。
「呼んだのは月雲了のことだ。百は親しかっただろう」
「もうつるんでないよ……!」
「百、聞きたいことがある。運動部とはなんだ。おまえと親しいことを匂わせたら、月雲はこう聞いてきたんだ。私も運動部かと」
「あー……。うん。三年くらい前から、定期的に一緒にスポーツする人はたくさんいるんだ。芸能人でも、業界関係の人でも。スポーツやゲームすると人柄がわかるからね!それに日ごろから仲良くしてるとさ、スタジオでなんかあったとき、顔でわかるんだ」
「最近は龍之介くんや三月くんもその運動部に入ったっていってたよね」
百と千の会話を聞いていた八乙女が気付いたように言った。
「それだ」
「何が?」
「月雲が何故、おまえに絡んでくるのかわかるか?」
「知らないよ。いびっても媚びなかったから面白がってるだけじゃない?」
「違う。千葉サロンだ。あれは元々、役者や若手の監督が横暴な業界の権力者に抵抗するために生まれた。実際、千葉サロンの存在のおかげで横暴な奴らの言いなりだった役者の待遇は大幅に向上したんだ。おまえは人脈が広い。あいつは、おまえのその運動部が現代の千葉サロンだと勘違いしてるんだ」