第16章 アダムとイヴの林檎
「お引き取り下さい、月雲さん。……姉鷺!お客様がお帰りだ!」
「は、はい……っ!」
「交渉は決裂?」
「言わなきゃわからないか、小僧!……いえ、失礼いたしました。お帰りはあちらです」
八乙女は怒鳴ってから、無表情のまま了をドアの方へと促す。
「あなたがツクモに入社したての頃の写真を見たよ。隣に写ってたあの女性はどこにいったんだ?」
「……あなたのことは百から聞いています。荒っぽい連中とつるんで得体のしれない商売をしていたとか。そちらこそ、スキャンダルにならぬよう、ご注意を」
「……モモと親しいのか。なるほど、君も運動部ってわけだ」
「……運動部?」
「帰るよ。コーヒーご馳走様。君が哀れになるほど、泥水みたいな味だった」
皮肉めいた言葉を残してから、了は去って行った。
しばらく扉を見つめていた八乙女が、姉鷺に向かって叫ぶ。
「塩を撒け!!」
「いいんですか…?」
「構うものか!……っあいつに連絡しろ!ただちに事務所に来るよう連絡してくれ」