第14章 追憶の幻想曲
「うん、OK。零、これで、グーサインしてごらん」
満足そうに言う千に、大和が慌てて口を開く。
「うん、OK。じゃねえ!!!あんたうちの零ちゃんに何してくれてんだよ!?全国の零ちゃんファンに殺されんぞ!?」
「仕方ないじゃないか。運転してる車からじゃ顔なんてよく見えないだろうし。でも、露出してれば分かるでしょ」
「んなもんに引っかかるエロジジイの車に乗る気か!?」
『大丈夫だよ、大和くん!私、胸は無い方だから……』
零がそう言えば、大和はちらりと零の胸元に視線を落としてから、気まずそうに視線を逸らした。
「いや……何も俺はそういうことを言ってたんじゃ……」
「うわ、おっさん今零ちゃんの胸元ちら見したろ!?やーらしい!」
「…くくっ…大和くんのエッチ」
「………もうこいつら嫌だ……」
頭を抱えて項垂れる大和を余所に、零はタンクトップにショートパンツ姿でグーサインを道路に掲げた。
そして、千の作戦の甲斐あってか、数分ほどで運よく軽トラックが停まってくれた。
トラックの運転手さんは地元のおじさんで、四人がアイドルだということには気付いていない様子にも関わらず、気前よく四人をトラックの荷台に乗せてくれることに。
『ありがとうございます…!』
「おっちゃん、恩に切ります!」
「いやー、助かりました、ホント」
口々にお礼を言うなか、おっちゃんが千を指差して、不思議そうに首を傾げた。
「……おじさん、僕に何か?」
「お前さんの後ろ、女の子が憑いとるよ」
おっちゃんの言葉に、四人は凍りついたように固まった。
「憑い……てる……?」
大和が口元を歪めながら、千を見る。千は気まずそうに口の端をあげてから答えた。
「……みたいね。……昔もよくあったんだよね。ライブの後に、女の子が家まで付いてきちゃうの」
「……さすがっすね……」
『……あはは……』
凍りついた空気のまま、四人……いや、五人はトラックの荷台に乗ったのだった。