第14章 追憶の幻想曲
「………零?」
『ももー……もう飲めない…』
零の顔は真っ赤になっていて、瞳は重たそうに閉じられている。
思い出話が余程恥ずかしかったのか、一人でひたすら飲んでいたのだろう。気付けば零の前には缶酎ハイの空き缶が三本並んでいる。
「大丈夫?……うん、いいよ、もう飲まなくて。酔い覚ましに少し寝てくる?ほら、あっちの部屋、連れていってあげる」
百が零の背中に腕を回そうと伸ばした時だった。零はそのままくるり、と百の方に半回転してから、自身の両腕を百の首にぎゅっと回した。
「……ちょ、…零……っ!?」
『もーちょっと、このまま……』
百に抱きつく様にして甘えている零の姿に、さきほどまで大興奮して話を聞いていた大和・楽・壮五・三月・龍之介の五人は目を点にして口をあんぐり開けて唖然としている。
「か、かわいいな……なんだそれ……」
「……羨ましいぜ、百さん」
大和に楽がぼそり、と呟けば。
「駄目だよ。零が甘えるのは、モモ限定だから」
なぜかドヤ顔で、嬉しそうに言う千。
百は緊張したような表情で頬を桃色に染めながら、零の背中に腕を回して優しく撫でてやる。すーと静かな寝息が聞こえてきて、彼女は百の肩に頭を乗せたまま眠り始めた。
「……やべえぞ。今目の前に、彼女にしたいランキング一位の貴重な寝顔が……」
「……写メ撮っていいっすか、百さん…一枚だけ!」
「駄ー目!」
零の寝顔を恍惚とした表情で見つめる男たち。
そんな彼らを見ながら、三月は思った。
「………(確かに可愛い。可愛いよ、零ちゃんの寝顔だもん、当たり前だろ?……でもさ、これが撮影だってこと忘れてねえか?このおっさんたち……)」
アイドルだということを忘れて、紅一点の寝顔に夢中になっている成人組。
未成年組に至っては、酒臭い青年組から離れた場所でだるまさんが転んだをはじめている始末。
「あれ……冷蔵庫のお酒がなくなってる……」
酒の補充に冷蔵庫を開けた壮五がぽつりと溢した。
代わりに、一枚のメモが冷蔵庫に置かれている。