第3章 交錯する想い
『本日はゲストにいらしてくださってありがとうございます。どうぞよろしくお願いします』
零とマネージャーに続き音晴も、立ち上がり挨拶をする。
「あ、あのっ……私、折原さんの大ファンなんです!デビューした時からすごく憧れてて…!」
梢の言葉に零が頭を上げれば、彼女の大きく丸い瞳とばっちり目が合った。小さな顔に、まんまるな瞳と小さな鼻と口。まさに現代のアイドルといった、可愛らしい風貌だ。
『えっ……う、嬉しいです!ありがとうございます…!』
「よろしくお願いしますっ!」
梢は、にこっと笑ってぺこりとお辞儀をしてみせた。高い声もきゃぴきゃぴした仕草も、零にはないアイドルらしさだった。
きっと彼女は、自分と違って見せかけのアイドルじゃなく、根っからのアイドルなんだろう、なんて思いながら零は笑顔を返す。
一言二言他愛ない話を交わしてから、梢とそのマネージャーは楽屋を出て行った。
『…なんか、いいなあ』
ぼそっと呟いた零の一言に、音晴がハテナを浮かべる。
「何がだい?」
『ああいう、ふわふわした可愛らしい雰囲気。私にはないものだから、羨ましいなあって。あの子、この前のミュージックフェスタで見たんだけど、ダンスもうまいよね』
「たしかに零ちゃんとは雰囲気が違うかもね。黒川芸能は、女性アイドルのダンスにも力を入れてるからね。今一番の売り出し中の子みたいだし、ダンスもキレが違うよね。でも、うちの零ちゃんには到底及ばないよ?」
『社長は私のこと贔屓目に見すぎなんですよ。私はダンス踊れないし、アイドルとしてだったら絶対あの子の方が』
「もう、それ零ちゃんの悪い癖!マイナス思考やめなさい!君の方が上だからこうしてトップに君臨してるんだよ。もっと自信を持ちなさい。梢ちゃんも、零ちゃんに憧れてるって言ってたじゃないか。びしっとしなさい!」
マネージャーの言葉に、零はごめんなさいと謝る。彼の言う通りだ。ファンだと言ってくれた彼女の期待を裏切らないよう、今日の収録はいつも以上に頑張らなくては。
零は気合を入れるようにぱちん、と両手で頬を叩いてから、スタジオへ向かった。