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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第13章 ロストロングラブレター




――「……それだけ?」

――『え……いや、他にもいっぱいあるよ?本当はすっごい優しくて、いつも助けにきてくれて…悩んでると、いつもなんでも解決してくれて……』

――「………」

――『歌も、ダンスも……見惚れちゃうくらい上手なとことか……なんだかんだわがまま聞いてくれるところとか、仕方なさそうに笑う顔とか……たまに可愛いとことか、カッコいいとことか!ていうか、全部!あはは……っ、考えてみれば、天に悪いところなんて、一つもないや!』




零と天の声だとわかって、思わず足が竦んだ。




――「……よくそんなこと恥ずかしげもなく言えるね」

――『え?私なんか恥ずかしいこと言った?』

――「……はあ…」

――『あと、演技力もびっくりしちゃった。天は本当にすごいよね……アドリブなんて、私考えたこともなかったもん。天はアイドルだけじゃなくて、役者さんの才能もあるね!小さい頃から、天はなんでもできたから。完璧な、正義のヒーローみたいに』




聞こえてくるのは、二人の楽しそうな声だった。

盗み聞きなんてしたくないのに、頭が真っ白になって、足が竦んで、思う様に動かない。

声だけで、もうわかってしまう。
楽しそうで、幸せそうで。二人が今どんな顔をしているのかなんて、見なくたってわかる。



――「……言ったでしょう。零の前では演技なんてしてないって」

――『え?』

――「さっき言った台詞が、本当だって言ったらどうする?キミは、笑う?」




もう、これ以上聞いてなんていられなかった。

拳で思い切り足を殴って、漸く動き出した両足で出口の方へと無我夢中で走る。


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