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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第13章 ロストロングラブレター




山岸に礼を言ってから、百は休憩室への廊下をとぼとぼ歩いていた。


”俺に用があるって言って、スタジオに入ってきちゃっていいよ!”と万理は言ってくれたものの、いざ零に会えるとなるとなぜか少し緊張していた。

あんなに会いたいと毎日望んでいたくせに。先ほど、ドラマを見たせいだろうか。零の表情も、天の表情も、演技なんだとわかっていてもやけにリアルで、まるで二人の心情を見せられているようだった。

―――零に想いを伝えたとき。

彼女は過去を忘れたい、と。前に進みたい、と言っていた。だから、オレでいっぱいにして、辛いことや哀しいことなんて思い出す暇も考える暇もないくらい、これ以上笑えないよってくらい、笑顔で溢れさせてあげたかった。

飽きるくらい、幸せだと感じさせてあげたかった。

自分に自信なんてないし、零と自分が釣り合うとも思ってない。天は可愛いしイケメンだし完璧だし、天の方が零とずっと絵になるし、お似合いだ。
でも、そんなオレにもたった一つだけ、誰にも負けないと思ってたことがあった。零のことを笑顔にさせてあげる自信だけは、誰よりもある、って。

それだけは、自信があったんだ。

なのに。

少しだけ、怖くなってる自分がいる。
それくらいしか自信なんてないのに、それさえも揺らいでしまいそうで。

もし、天の前で零が幸せそうに笑っていたら。

オレに出来ることはもうないんじゃないか、って―――。


悪い妄想ばかりがぐるぐると頭の中を回って、心なしか足が重い。手に汗を握りながら、ぼそっと呟いた。


「……緊張、する……」


重い足取りで休憩室へと足を進めれば。
ふと、聞き慣れた声が耳を掠めた。


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