第13章 ロストロングラブレター
山岸に礼を言ってから、百は休憩室への廊下をとぼとぼ歩いていた。
”俺に用があるって言って、スタジオに入ってきちゃっていいよ!”と万理は言ってくれたものの、いざ零に会えるとなるとなぜか少し緊張していた。
あんなに会いたいと毎日望んでいたくせに。先ほど、ドラマを見たせいだろうか。零の表情も、天の表情も、演技なんだとわかっていてもやけにリアルで、まるで二人の心情を見せられているようだった。
―――零に想いを伝えたとき。
彼女は過去を忘れたい、と。前に進みたい、と言っていた。だから、オレでいっぱいにして、辛いことや哀しいことなんて思い出す暇も考える暇もないくらい、これ以上笑えないよってくらい、笑顔で溢れさせてあげたかった。
飽きるくらい、幸せだと感じさせてあげたかった。
自分に自信なんてないし、零と自分が釣り合うとも思ってない。天は可愛いしイケメンだし完璧だし、天の方が零とずっと絵になるし、お似合いだ。
でも、そんなオレにもたった一つだけ、誰にも負けないと思ってたことがあった。零のことを笑顔にさせてあげる自信だけは、誰よりもある、って。
それだけは、自信があったんだ。
なのに。
少しだけ、怖くなってる自分がいる。
それくらいしか自信なんてないのに、それさえも揺らいでしまいそうで。
もし、天の前で零が幸せそうに笑っていたら。
オレに出来ることはもうないんじゃないか、って―――。
悪い妄想ばかりがぐるぐると頭の中を回って、心なしか足が重い。手に汗を握りながら、ぼそっと呟いた。
「……緊張、する……」
重い足取りで休憩室へと足を進めれば。
ふと、聞き慣れた声が耳を掠めた。