第13章 ロストロングラブレター
『………はあ』
スタジオの廊下に、零のため息が小さく木霊した。
今日はロケ地じゃなくて、スタジオ撮影で本当によかったと思う。
ロケ地だったら、逃げ場なんてどこにもない。零はそんなことを思いながら、とぼとぼと廊下を歩いていた。
―――思わず、逃げるように走ってきてしまった。
演技だということは、100も承知なのに。
どうしてこんなに胸が締め付けられるんだろう。
アドリブにしたって。あんな台詞を考えついてしまう天はすごいよ。まるで自分のことみたいに言うんだもん。
あんなこと言われたら。
いくら演技だって、びっくりするよ……。
「―――零さん」
ふと、後ろから掛かった声に振り向いてみれば、そこには共演者の俳優が立っていた。彼はツクモプロ所属の俳優で、最近売出し中の――。
『山岸さん……!』
「突然すみません、驚かせてしまいました?」
『あっ…いえ、そんな。すみません、ぼーっとしてて……』
「いえいえ。主演ですもん、疲れますよね。一階の休憩室、空いてましたよ。Vチェックまで時間ありますし、それまで休まれたらいかがですか?」
『…ご親切にありがとうございます…。じゃあ、お言葉に甘えて…』
親切に空いている休憩室を教えてくれた山岸に礼をしてから、零はとぼとぼと休憩室まで向かった。月雲了との一件以来、ツクモプロに対してあまり良いイメージを持っていなかったのが正直なところだったけれど。月雲了が危ない奴だというだけで、所属のタレントさんに罪はない。変な偏見はやめよう、と一人で納得する。
『(あ……携帯、万理さんに預けたままだ…。持って来ればよかったかな…)』
俯きながらそんなことを考えていれば、休憩室にたどり着いた。自販機の前でコーラのボタンを押そうとして、踏みとどまる。コーラの隣に並んでいる”ももとりんごのスパークリング”が視界に入って、思わず笑みが零れた。
あんなに毎日のように飲まされて、嫌気がさしていたももりんだったのに。今となっては、少しだけももりんが恋しい。
ドラマの撮影が始まってから、百とは全然会えていなかった。先週のNEXT Re:valeも、前後に撮影が入っていて、ゆっくり会話を交わすことすらできなかったのだ。