第13章 ロストロングラブレター
それから忙しなく日々が過ぎ、撮影は順調に進んでいった。
初回放送を今夜に備えた今日も朝から撮影が始まっており、陽が暮れてきた頃には中盤の見せ場とでも言うべきシーンの撮影が始まろうとしていた。
ずっと好きだったことをついに男の子側が告白するシーン。原作の名シーンであり、零にとって大好きなシーンの一つだった。零は朝から台本と原作を何度も読み直し、念入りに台詞や表情を頭に詰め込んでいた。
「――それではお願いします!」
監督の言葉に、いよいよその場面のワンカット目が始まる。
二人が見つめ合うところから始まるこのシーンは、監督が最も力を入れたいシーンだそうで、現場の空気は緊張感に包まれていた。
『………、』
いくら撮影といえど、目の前にある天の綺麗な顔に、思わず息を呑んでしまう。
小さい頃の面影は勿論あるけれど、あの時とはくらべものにならないほど大人びていて。人形みたいに整っていながら、どこか儚さを感じさせる、演技だとわかっていても、表情までこんなに作りこめるなんて、天はやっぱりすごいと思わずにはいられなかった。
しばらく見つめ合ってから、天は小さく口を開いた。
「……ずっと好きだったよ」
『………――』
「……キミを思い出さない日なんて、たった一日だってなかった」
―――え?
「……キミの声が、笑顔が、匂いが。いつまでもボクの心を、掴んで離してくれない」
―――こんな台詞……台本には、ない。
零は、大きく目を見開いたまま。そこから動くことができなかった。ずっと好きだった―――台詞はそこで終わるはずなのに。
瞬きさえも忘れて、天の透き通った瞳と見つめ合う。
―――真っ直ぐな瞳に射抜かれて。
呼吸さえも忘れてしまいそう。
演技だとわかっていても。
心臓がうるさいくらいに鳴っていて。
息苦しくて、胸が詰まりそう。