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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第13章 ロストロングラブレター





それから忙しなく日々が過ぎ、撮影は順調に進んでいった。


初回放送を今夜に備えた今日も朝から撮影が始まっており、陽が暮れてきた頃には中盤の見せ場とでも言うべきシーンの撮影が始まろうとしていた。

ずっと好きだったことをついに男の子側が告白するシーン。原作の名シーンであり、零にとって大好きなシーンの一つだった。零は朝から台本と原作を何度も読み直し、念入りに台詞や表情を頭に詰め込んでいた。



「――それではお願いします!」


監督の言葉に、いよいよその場面のワンカット目が始まる。
二人が見つめ合うところから始まるこのシーンは、監督が最も力を入れたいシーンだそうで、現場の空気は緊張感に包まれていた。




『………、』


いくら撮影といえど、目の前にある天の綺麗な顔に、思わず息を呑んでしまう。

小さい頃の面影は勿論あるけれど、あの時とはくらべものにならないほど大人びていて。人形みたいに整っていながら、どこか儚さを感じさせる、演技だとわかっていても、表情までこんなに作りこめるなんて、天はやっぱりすごいと思わずにはいられなかった。

しばらく見つめ合ってから、天は小さく口を開いた。



「……ずっと好きだったよ」

『………――』

「……キミを思い出さない日なんて、たった一日だってなかった」




―――え?




「……キミの声が、笑顔が、匂いが。いつまでもボクの心を、掴んで離してくれない」




―――こんな台詞……台本には、ない。



零は、大きく目を見開いたまま。そこから動くことができなかった。ずっと好きだった―――台詞はそこで終わるはずなのに。

瞬きさえも忘れて、天の透き通った瞳と見つめ合う。


―――真っ直ぐな瞳に射抜かれて。
呼吸さえも忘れてしまいそう。

演技だとわかっていても。
心臓がうるさいくらいに鳴っていて。
息苦しくて、胸が詰まりそう。

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