第13章 ロストロングラブレター
『ありがと……』
「どういたしまして」
二人の間に、沈黙が流れる。
ベンチに座る二人の間には、人一人分くらい座れるほどの隙間があって、なんだかそれが今の二人の心の距離を表しているようだった。
「……一つ、聞いていい?」
先に沈黙を破ったのは、天だった。
『…うん……。どうしたの?』
「ボクが相手だと、やりづらい?」
天の問いに、零は気まずそうに俯いた。
『やりづらいってわけじゃないんだけど……。やっぱりちょっと、緊張…するというか……』
「どうして?」
『どうしてって……だって、本当の幼馴染だし……演技するってなると、なんか…妙に恥ずかしくて』
「演技なんてする必要ないんじゃない?」
『え?』
「零とのシーン、ボクは演技なんてしてないけどね」
天の言葉に、零は目を見開く。
「演技で笑ってる顔なんかより、いつもの自然に笑ってる零の方が、ずっと魅力的。演技に集中しようとして、可愛い笑顔が台無し」
『かっ……かわ…!?』
「ふふ、それくらいで照れるアイドルがいる?」
”可愛い”発言に盛大に照れる零。そんな彼女に、思わず笑みが零れてしまう。天はくすくすと笑いながら、続けた。
「昔、ボクに笑いかけてくれてた時みたいに、笑ってみせてよ」
『……っ』
「演技なんて、しなくていいから」
そういって、天はぽんと零の頭に手を置いて、腰をあげた。そして彼はそのまま、台本を手にスタッフの元へと歩いていってしまった。
―――天は、ずるいよ。
何度も突き放しておいて、あんなに優しい顔で、優しい言葉をくれるんだから。
はあ、とため息を吐いてから、コーラを一気に流し込んだ。
強炭酸が喉の奥にぴりぴりと響いて心地よい。
『……よし。頑張ろ』
小さく呟いてから、気合いを入れ直すように立ち上がった。