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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第13章 ロストロングラブレター




『ありがと……』

「どういたしまして」


二人の間に、沈黙が流れる。
ベンチに座る二人の間には、人一人分くらい座れるほどの隙間があって、なんだかそれが今の二人の心の距離を表しているようだった。


「……一つ、聞いていい?」


先に沈黙を破ったのは、天だった。


『…うん……。どうしたの?』

「ボクが相手だと、やりづらい?」


天の問いに、零は気まずそうに俯いた。


『やりづらいってわけじゃないんだけど……。やっぱりちょっと、緊張…するというか……』

「どうして?」

『どうしてって……だって、本当の幼馴染だし……演技するってなると、なんか…妙に恥ずかしくて』

「演技なんてする必要ないんじゃない?」

『え?』

「零とのシーン、ボクは演技なんてしてないけどね」


天の言葉に、零は目を見開く。


「演技で笑ってる顔なんかより、いつもの自然に笑ってる零の方が、ずっと魅力的。演技に集中しようとして、可愛い笑顔が台無し」

『かっ……かわ…!?』

「ふふ、それくらいで照れるアイドルがいる?」


”可愛い”発言に盛大に照れる零。そんな彼女に、思わず笑みが零れてしまう。天はくすくすと笑いながら、続けた。


「昔、ボクに笑いかけてくれてた時みたいに、笑ってみせてよ」

『……っ』

「演技なんて、しなくていいから」


そういって、天はぽんと零の頭に手を置いて、腰をあげた。そして彼はそのまま、台本を手にスタッフの元へと歩いていってしまった。



―――天は、ずるいよ。

何度も突き放しておいて、あんなに優しい顔で、優しい言葉をくれるんだから。



はあ、とため息を吐いてから、コーラを一気に流し込んだ。
強炭酸が喉の奥にぴりぴりと響いて心地よい。


『……よし。頑張ろ』


小さく呟いてから、気合いを入れ直すように立ち上がった。


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