第13章 ロストロングラブレター
眩ゆい夏の陽光に包まれながら、撮影は慌ただしく始まった。
零にとって、初めてのラブストーリーに加えて相手役が天だということ、大好きな作品であること、などなどいくつも不安はあったけれど。
親切な監督や現場スタッフ、共演者の方々のサポートのおかげでなんとか撮影は順調に進んでいったかのように思えた―――が。
「―――はい、カット!零ちゃん、今のシーンなんだけど、もう少し自然に笑う感じ、お願いできる?ちょっと表情が固いかな。こう、心の奥から笑みが零れてくる、みたいな、そんな笑い方でお願いしたいんだけど」
『はい、すみません……もう一度お願いします』
「うん。じゃあ、少し休憩挟もうか」
監督に頭を下げてから、一旦休憩に入る。
天とのシーンになると、なぜか肩に力が入ってしまって自分らしく演技ができずにいた。
それぞれ休憩場所へとばらけていくスタッフたちの背中を見つめながら、小さくため息を吐いた。
『………はあ』
「ため息?」
突然掛かった声に振り向いてみれば。
そこには仕方なさそうに笑っている天が立っていて。
『……て……!……九条さん…!』
「……わざわざ言い直さなくていいよ。誰も聞いてない」
『あ……うん…ごめん』
「はい、これ」
天は手に持っていたコーラの缶を、零の頬にぴたっとくっつけた。
『ひゃっ!!つめたっ!!』
「キンキンに冷えてないコーラはコーラじゃないとか言うくせに?」
『そ、それはそうなんだけど……。これ…買ってきてくれたの?』
「うん。まだ、コーラは好きなまま?」
『………うん。ありがとう』
そう、と素っ気なく言ってから、天は近くのベンチに腰掛けた。
「座れば?」
『……うん』
おそるおそる天の横に座れば、天がそっと手を差し出した。
『?』
「……貸して。開けてあげる」
『え、あ……』
いつまでもコーラを握りしめている零の手からひょい、とコーラを取り上げ、天は細い指でプシュっと音を立てて缶を開けてくれた。撮影用のネイルをしていることを気遣ってくれたのだろうか。天は昔から、些細なことに本当によく気づく。