第13章 ロストロングラブレター
”明日もきみに恋をする”――それは、彼女が大好きだった少女漫画だった。
零が昔読んでいた漫画が気になって、こっそり全巻買って読んでみたなんて、恥ずかしくてこの先誰にも言えない秘密だ。
少女漫画なんて、読んだことも興味もなかったけれど。
いざ読んでみれば、なんだか、自分と零のことみたいで。気付けば寝るのも忘れて、一気に読んでいた。
それからはすっかりその作品のファンになって、自分の部屋に全巻しっかり置いてある始末。移動中、ブックカバーを掛けてたまに読んだりしていたのだけれど、楽と姉鷺マネージャーに知られて少し面倒臭いことになったのは記憶に新しい。
そんな作品の実写ドラマで、零と共演なんて。
願ってもみないことだった。
役だとはわかっていても。演技だとはわかっていても。
なんの理由もなしに、彼女に触れられるのだから。
彼女の側にいられるのだから。
普通を装うので、いっぱいいっぱいなんだ。
彼女のこととなると、余裕がなくなって、九条天でいられなくなりそうになる。少しでも気を抜けば、七瀬天に戻ってしまいそうになる。
何度も覚悟を決めたくせに、彼女の顔を見れば、あっさりと覚悟が砕けそうになるのだから。本当に自分は、彼女のこととなるとどうしようもないな、なんて自嘲してしまう。
ドラマでの零との共演は勿論のこと、それに加えて一つ、気になることがあった。
数日前、仕事を終えて帰宅すれば、家の前に一人の少年が立っていて。
”「お前の人生は無意味だ。必死に踊ったってトロフィーを取ったって、いずれお前は移り気なファンや世間に忘れ去られる。お前の弟がそうだったようにな、七瀬天」”
少年は吐き捨てるようにそれだけ言って、去って行った。
九条さんは海外にいて、電話は通じない。彼は一体、誰なのだろうか。あの言葉の意味は、一体?
そんなことを考えていれば、車が停まる。
頭を切り替えるようにして、両手で頬をぱちん、と叩いて。
車のドアを開けた。