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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第13章 ロストロングラブレター



”明日もきみに恋をする”――それは、彼女が大好きだった少女漫画だった。

零が昔読んでいた漫画が気になって、こっそり全巻買って読んでみたなんて、恥ずかしくてこの先誰にも言えない秘密だ。

少女漫画なんて、読んだことも興味もなかったけれど。
いざ読んでみれば、なんだか、自分と零のことみたいで。気付けば寝るのも忘れて、一気に読んでいた。

それからはすっかりその作品のファンになって、自分の部屋に全巻しっかり置いてある始末。移動中、ブックカバーを掛けてたまに読んだりしていたのだけれど、楽と姉鷺マネージャーに知られて少し面倒臭いことになったのは記憶に新しい。

そんな作品の実写ドラマで、零と共演なんて。

願ってもみないことだった。

役だとはわかっていても。演技だとはわかっていても。

なんの理由もなしに、彼女に触れられるのだから。
彼女の側にいられるのだから。


普通を装うので、いっぱいいっぱいなんだ。
彼女のこととなると、余裕がなくなって、九条天でいられなくなりそうになる。少しでも気を抜けば、七瀬天に戻ってしまいそうになる。

何度も覚悟を決めたくせに、彼女の顔を見れば、あっさりと覚悟が砕けそうになるのだから。本当に自分は、彼女のこととなるとどうしようもないな、なんて自嘲してしまう。


ドラマでの零との共演は勿論のこと、それに加えて一つ、気になることがあった。


数日前、仕事を終えて帰宅すれば、家の前に一人の少年が立っていて。


”「お前の人生は無意味だ。必死に踊ったってトロフィーを取ったって、いずれお前は移り気なファンや世間に忘れ去られる。お前の弟がそうだったようにな、七瀬天」”


少年は吐き捨てるようにそれだけ言って、去って行った。
九条さんは海外にいて、電話は通じない。彼は一体、誰なのだろうか。あの言葉の意味は、一体?


そんなことを考えていれば、車が停まる。

頭を切り替えるようにして、両手で頬をぱちん、と叩いて。

車のドアを開けた。



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