第13章 ロストロングラブレター
――NO DOUBTのMVを初めて見た時、百ってこんな大人っぽい表情できるんだ!?なんて驚いたのは記憶に新しい。けれど、好きだと言われてからは、むしろ大人っぽい表情を見る事の方が多くなって。その度に、こうして心臓がうるさいくらいに鳴るんだ。
そんな私の気なんて知らずに、百は大人っぽい表情のまま、幸せそうに微笑んでから口を開いた。
「……十分すぎるほど、幸せだよ。この一瞬が一生分の幸せです、って言われても満足できちゃうくらい。そんな幸せを、オレは毎日零からもらってる。これ以上のわがままなんて、何もないよ」
骨張った指がゆっくりと伸びてきて、熱くなってる頬にそっと触れた。
ぎゅ、と目を閉じれば、唇に柔らかな感触が降りてきて。
しばらくそのまま、ぴたりと動けなくなる。静かな部屋で、こんなに近くて、心臓の音が聞こえてしまいそう。
そっと唇が離れたかと思えば、目を開ける間もなく再びぎゅうう、と抱き締められた。
『……ぐるじい』
「零が可愛すぎて辛い…!」
『……はいはい』
抱き締められた腕の中で胸に顔を埋めていれば、いつも百から香る柔軟剤の匂いが鼻いっぱいに広がって、たまらなく癒される。
腕を緩めてくれる様子はなくて、少し息苦しいけれど。百が満足してくれるなら、まぁいいか、なんて思いながら。
『……おやすみ、百』
「おやすみ、ハニー。愛してるよ」
その言葉と共におでこに優しいキスが降りてきて、そっと瞳を閉じる。
心地良い夢の世界に誘われて、温かい百の腕の中でゆっくりと眠りに落ちた。