第13章 ロストロングラブレター
「零ちゃん…なんか、緊張してる?」
万理から掛かった言葉に、思い切り首を横に振った。
『し、してませんよ……ただの顔合わせでしょう』
「いや、してるよね。まあ、そうだよね。大好きな作家さんも来るんだから、そりゃ、緊張するよね」
『……はい…』
今日は、ドラマの顔合わせの日だ。
スケジュールが過密のタレントが勢ぞろいらしく、顔合わせを終えてすぐに本読みやらリハの時間短縮を図るためこのまま現場へ行くらしい。
零にとって大好きな作者さんに挨拶ができることも、天と久しぶりに会うことも、とてもじゃないけれど緊張せずにはいられなかった。
「――おはようございます」
ふと、後ろから掛かった聞き慣れた声に振り向けば。
そこには天と姉鷺が立っていて。
『……!…おはよう…ございます』
「零さん、緊張されてます?顔が固いですよ」
天は爽やかに笑いながら、言った。
流石だなあ、と思わずにはいられない。デビューしてからの年数は自分の方が長いけれど、天の方がずっとプロだと思う。
『あはは……すみません、少し緊張してしまって』
「……好きでしたもんね、この漫画」
天の言葉に、とくり、と心臓が鳴った。
――覚えてたんだ。
『……はい』
零の返事に、姉鷺が気付いたように口を開く。
「あら、そうなの?天もこの作品、大好きなのよ。よく移動中にこっそり読んで――」
「姉鷺さん、無駄話はいいですから。零さん、大神さん、今日からよろしくお願いします」
「ああ、ごめんなさいね。それじゃ、よろしくね」
「よろしくお願いします」
『……よろしくお願いします』
万理に続いて頭を下げてから、会議室へと入っていく天の背中を見つめた。
――天も、少女漫画を読んだりするんだ。なんて。想像したら、なんだか少しおかしくて。
緊張していた気持ちが、やんわりと和らいだ気がした。