第13章 ロストロングラブレター
「ダブル主演……九条天……?」
ぽつり、と百が呟く。
どきっと胸が跳ねて、零はなぜだか百の顔を直視できなかった。どうしていいかわからずに、ごまかすように口を開く。
『……うん、そうそう……天とダブル主演なんて、びっくりだよね。まさか本当の幼馴染と幼馴染同士の役をやるなんて…あはは、神様のいたずらかな!』
「………」
言ってみたはいいけれど、百からの返事はない。代わりに、千がぼそり、と呟いた。
「だとしたら、神様は意地悪だね」
千の言葉に、零はその通りだと思った。
――天と幼馴染だということを、百は知っている。
昔から好きだった人がいたということも、告白された時に話した。それが天だとは言っていないけれど、百の声が出なくなったときに楽屋で天と言い合いになって、その話の流れからするに、気付いているんじゃないかな、とは感じていた。
けれど、その話について百が触れてくることは一度もなくて。
『あはは……そう、だね』
「意地糞の悪い神様だ。まるでモモと天くんの間で、零を試しているみたい」
『…千ちゃん……』
零がおそるおそる顔をあげてみれば、どこか複雑そうな表情で台本を見つめている百の姿が視界に入った。視線を感じたのか、顔をあげた百と目が合った瞬間、彼はにこっと笑った。
「あはは、意地悪なんかじゃないよ。零、この漫画好きだったよね?オレだったら、最高に嬉しいな。好きな漫画の実写化に自分が出れるんだよ?それって、すごいことじゃん!むしろ、神様からのプレゼントだよ」
『………』
無理に笑っているのが見て取れる。
百の優しさに、ずきずきと胸が痛む。不穏な空気を一掃するかのように、百は千の手から台本をひょいと取り上げて、鞄の中にしまい込んだ。
「二人とも、全然お酒進んでないじゃん!零の連ドラ主演が決まったお祝いだよ、今夜は飲み明かすしかないでしょ!」
「……それもそうだね。乾杯しなおそうか。その前に、ちょっとお手洗い」
千がお手洗いに立てば、百は零の隣に戻ってくる。零が不安そうな顔で隣を見やれば、百はにこにこといつものように笑っていて。