第13章 ロストロングラブレター
―――ずっと、考えていた。
台本を読んでから、やっぱりこの作品は素晴らしいなと思ったのと同時に、過去の天への想いがこみあげてくるようで。
前に進めていると思っていたのに、やっぱりまだ自分は立ち止まったままなのかな、だとか、天は自分との共演をどう思っているんだろう、だとか。
純愛ものだけれど、あくまでラブストーリーであって。キスシーンだとか、濡れ場とまではいかないけれどそれに近いようなシーンだとか、そういう場面も少なからずある。タレントなら当たり前のことなんだけれど、恋愛もののドラマに出演するのはこれが初めてで、色々と考えずにはいられなかった。
百はどう思うんだろう。とか、そんな思いがぐるぐると頭の中を回っていて。仮にも百はトップアイドルで、自分よりもずっと芸能界にいる時間は長いし、プロ中のプロだ。理解なんて当たり前にあることはわかっているけれど、それでも少しは嫌な思いをさせてしまうんじゃないかな、なんて考えていれば胸が締め付けられる。
「あれ、零。これ、なんの台本?」
御手洗いに立とうとして零の後ろを通った千が、零の横に置いてあった鞄の中を指差しながら言った。
『…あ……うん、来季のドラマ、決まってさ』
「え!?なんで言ってくれなかったの!?じゃあ、今日はお祝いじゃん!」
急にはしゃぎだす百に、お手洗いに行くことを忘れて鞄の隣に座り出し台本を手に取る千。
「……へえ。しかも主演。さすが」
「主演!?マジで!?何々、どんなドラマ!?ユキ、オレにも見せてっ!!」
慌てて席を立って千の後ろから台本を覗き込む百に、零は苦笑する。いずれ言わなきゃいけないことだとわかっていたけれど、いざ、百に知られるのかと思うと少し緊張した。
「うわ……!しかも、”きみ恋”の実写化じゃん!」
「実写化なんだ。キミコイ?アニメか何か?」
「え、ユキ、知らないの!?明日もきみに恋をする、略してきみ恋!超有名な少女漫画だよ!胸キュン必至の王道ラブストーリーだよ!」
「ラブストーリーか。零、恋愛ものは初めてなんじゃない?」
『…うん』
零が気まずそうに頷けば、百が台本を見ながら大きく目を見開いた。