第13章 ロストロングラブレター
「零……もしかして、何か嫌なことでもあった?」
心配そうに訊ねる百に、零はきょとん、としてから微笑んだ。
『ううん、そんなんじゃないよ。ただ、ちょっとお酒が飲みたくなっただけ』
「そっか…なら、いいんだけど」
「最近、暑いしね。そういう時もあるよね」
『そうそう』
百は本当に心配性だなあ、なんて思いながら、グラスに注がれていくワインを見つめる。
上品で美しい葡萄色は、どこか百の瞳の色に似てるかも、なんて、ふとそんなことを思った。
「そういえば。Friends dayのパーソナリティ枠にTRIGGERとIDORiSH7が抜擢されるかもしれないんだって?」
千の言葉に、零が頷く。
『らしいね。元々決まってた枠の人たちが降りた、なんて噂が広まってるみたい』
今年のFriends dayは、メインパーソナリティとしてRe:vale、チャリティパーソナリティとして零が決まっており、他のパーソナリティ枠はツクモ所属のタレントで決まっていたはずだった。けれど、急に辞退するなんて話が流れ始めて、番組企画側がざわついているんだとか。
「でも、オレ達と、TRIGGERとIDORiSH7で一つの番組が出来るなんて、超ハッピーじゃん!余計なことは考えなくていいよ。全力全開で楽しもー!」
『百はいつでも全力全開ハッピーじゃん』
「そうね」
三人で笑い合いながら、乾杯を交わす。
隣で言い合う百と千にくすくす笑いながら、零はグラスに口をつけた。芳醇な果実感のあとに程よい渋みが口内に広がって、思わず目を細める。