第13章 ロストロングラブレター
「零、聞いてよ!今日収録で、ユキと二人羽織やったんだけどさあ」
「…くくっ……、モモ、唐揚げ美味しかった?」
一日の仕事を終え、零はいつものように百と千の待つ行きつけのバーに来ていた。
既に二人は定位置に座っていて、こちらに気付いた百が今日の収録の話をし始める。
『あはは、よかったじゃん。百、唐揚げ好きじゃん』
「そういう問題じゃないの!熱いし、連続で詰め込まれるし、美味しいとか以前の問題だから!」
ぎゃあぎゃあと文句を言う百と、くすくすと笑う千。
零はいつものようにそんな二人の横に腰掛ければ、くるり、とバースツールをこちらに回転させた百と目が合った。
「今日もお疲れさま。ご飯食べた?」
『お疲れ様。ううん、食べてないよ。百たちは?』
零が言えば、百の横から千がひょっこりと顔を出した。
「零が来るまで待ってたんだ。モモは僕じゃなく、零にあーんして欲しいんだって」
「ちょっと、ユキ!そんなこと言ってないだろ!?」
「そう。じゃ、してほしくないの?」
「……そ…そうも言ってないけど……」
「……くくっ……」
百をからかって遊んでいる千に笑っていれば、店員が注文を訊きにやってきた。
普段は百や万理に止められているのもあってあまりお酒は飲まないけれど、今日はなんだかお酒が飲みたい気分だった。
『赤、グラスでもらおうかな』
「え?零、お酒飲むの?」
『うん。なんか今日は飲みたい気分』
「じゃあ、僕も付き合うよ。ボトルで頼もうか。オーパス持ってきて」
オーパス・ワンは、カリフォルニアの高級ワインだ。オーパスは音楽用語で作品番号を意味し、オーパスワンというネーミングには”一本のワインは交響曲、一杯のグラスワインはメロディのようなものだ”という想いがこめられているらしい。
なんとも音楽好きの千らしいチョイスだ。
三人でワインを飲む時は、大抵これを頼む。
果実感の強い口当たりはとても飲みやすくて、零もこのワインが好きだった。